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留学体験記 大林未来先生


Study Abroad Experience(Dr.Oobayashi)
静岡がんセンター(静がん)肝胆膵外科で2022年4月より国内留学をさせて頂いております、レジデントの大林未来(卒後10年目)と申します。体験をご報告させていただきます。

静がんに来るまでの私

私は浜松市天竜区(旧天竜市)に生まれ、浜松医科大学に2009年度に入学し、ボート部に在籍しておりました。どちらかというと部活やプライベート中心の学生生活を送っておりましたが、臨床医学の勉強をしてゆく中で、がん診療に携わる科に進みたいと考えるようになりました。当初は女性の外科医がまだ珍しく、漠然と内科に進むのだろうと思っていましたが、ポリクリで消化器外科手術の鮮やかさ・面白さを知り、アニマルラボなどで実際に手術手技を体験することで、消化器外科にどんどん興味が湧いてゆきました。
卒後は浜松医科大学附属病院と藤枝市立総合病院で初期臨床研修を行いました。実際の診療を経験し、執刀医として手術をさせていただく機会も頂き、消化器外科の道に進むことを決めました。女性の自分が消化器外科を選ぶのは体力面でもキャリア形成面でも本当に大丈夫なのかという不安こそありましたが、第二外科の先生方の温かい言葉をいただき、やってみてダメなら改めてその時どうするか考えることにして、まずはやりたいことをやってみよう、と考えました。
後期研修は藤枝市立総合病院、静岡市立清水病院で行いましたが怒涛の日々でした。良い意味で女性に対する手加減というものは全くなく、数々の症例を執刀し、また重症患者の管理などを通して消化器外科の基礎を叩き込まれました。

静がんについて

静がんは2002年に駿東郡長泉町に開院した、がん診療に特化した専門病院です。東名・新東名高速道路およびJR三島駅から大変アクセスがよく、患者さんは県東部・伊豆に限らず、全国から来院されます。患者さんへのホスピタリティを重視しているため、明るくきれいで、相談窓口、図書館、庭園、展望浴室などの設備が充実しており、患者会の開催や各種市民セミナーなども積極的に開催しています。また、研究開発が盛んに行われており、ファルマバレーセンターと呼ばれる研究所を擁しています。

レジデント生活

静がんの肝胆膵外科には2024年8月時点で上坂総長、杉浦部長以下スタッフ5名、レジデント13名が在籍しています(スタッフ1名、レジデント3名が女性)。出身や経歴は異なりますが、皆が肝胆膵外科診療および臨床研究に対する高い志を持っています。レジデント同士仲が良く、学年を超えた風通しのよさがあるため、互いに切磋琢磨する日々を送っています。
レジデントコースはいくつか種類があり、基本的にはレジデント(2年 or 3年)、チーフレジデント(2年)のほか、短期レジデント(6か月 or 1年)や消化器外科専門医取得コースなども設けられています。チーフレジデント以外はローテート制度となっており、内視鏡、消化器内科、麻酔、IVRや他消化器外科領域など、どの科でも自由に選択できます。

手術について

当科では年間約420例、うち高難度手術は約270例と、全国有数の手術件数を誇っています。特に難易度の高い、肝門部領域・広範囲胆管癌に対する大量肝切除や肝膵同時切除、血行再建を伴う切除にも積極的に取り組んでおり、成績も良好です。腹腔鏡、ロボットによる低侵襲手術も年間100例以上行われ、年々件数が増加し適応術式も拡大しています。
レジデントは週1~2件の症例が割り振られ、スタッフの第一助手もしくは指導のもと執刀することになります。膵頭十二指腸切除術、系統的肝切除術を始めとする高難度手術や腹腔鏡手術の執刀機会を頂く機会も豊富にあります。特にチーフレジデントでは、肝胆膵外科高度技能専門医および内視鏡外科技術認定医の取得を目指せるほどの執刀症例数を頂いています。件数の多い膵頭十二指腸切除術についてはビデオ勉強会などを経て高度に定型化されているため、スタッフの先生方からの指導をもとにビデオを何度も見て予習・復習を行うことで、一件執刀するごとにどんどん成長しているのを感じます。
多数の手術から得た知見をもとに術後管理も徹底しており、重症合併症の頻度はかなり低く、大手術を行っていながら重篤な合併症を少なく抑えることができているのは特筆に値します。また、ドレーンへの対応も含めて管理が定型化されているため、休日の緊急対応は当番医が行い、休日が確保されているのも魅力の一つかと思います。

カンファレンス

当科での高難度手術や良好な成績を支えているといっても過言ではないのが、毎週火曜に行われるカンファレンスです。病棟入院患者さんの経過報告、術前プレゼンテーション、手術の振り返りを行い、全員で情報を共有しています。術前プレゼンテーションは担当レジデントが行い、診断根拠、詳細な解剖学的特徴、それを踏まえた具体的な治療プランを執刀医の立場として意見することを求められます。肝胆膵領域の高難度手術は今までは上級医に言われるがまま切除プランを決めていたところがありましたが、多数の症例の治療根拠を聞き、考えることで、自分で術前~術中に何を行うかを考える力がついてきているように思います(とはいえまだまだ全然足りませんが)。
中でも肝門部領域胆管癌の症例では、動脈・門脈・胆管と腫瘍の位置を記載した解剖のイラストと、切除後の再建すべき胆管の断面の記載したイラストを作成し説明します。いわゆるこの「お絵描き」には多くの時間を費やしますが、何度もCTや教科書を見返して渾身の絵を仕上げることで、今までなんとなく捉えていた肝臓の解剖や、具体的な手術手順のイメージができてきます。もれなく熱い指導を頂き、最初に描いたのとは別物の絵となりますが、自分なりに考えてプレゼンテーションした症例の手術に入ることで、何倍も勉強になります。

学術活動

静がんでは学会発表や論文執筆も盛んに行われています。レジデントには個人のデスクと電子カルテが与えられており、学術活動が行いやすい環境です。豊富な症例数があるため、多方面からの検討がしやすく、臨床研究を熟知したスタッフが指導に当たってくださるため、とても恵まれた環境です。昨年は13本の原著論文、5本の症例報告(いずれも英文)が当科からpublishされました。国内の癌診療を牽引する施設の一員である自覚を持ち、常に新たな臨床的疑問を探しています。特定臨床研究や、前向き臨床試験などにも積極的に取り組んでいます。私は今まで症例報告こそ数本執筆したことはありましたが、原著論文を執筆するのは初めての経験で手探りの状態ですが、手厚い指導をいただいています。毎年複数本原著論文を投稿している同僚もおり、とても刺激的な環境です。
医局関連外の施設に出るのは初めてですが、ルーツに関わらず貴重な経験をできる環境の整った場所です。また関連でない故に、自分で機会を掴み、生かす胆力が必要であることも学びました。 最後になりますが、国内留学の機会を与えて下さいました、竹内教授、森田先生をはじめ、医局の諸先生方にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。